第5章 自分の声の才能に気づく
(略)
2011年の終わりに、レ・ミゼラブルの出演を終えた後のことを覚えている。僕は、無事に舞台をつとめられたことを感謝しに教会に行ったんだ。感動でいっぱいだった。最後の舞台の翌朝だったし。それにその舞台は、僕にとって大きな意味があって、予想以上のものをもたらしてくれたから。だけどそんなことより、僕はただそこに行って感謝したかった。この5カ月、無事にやり遂げられたことを。素晴らしい気持ちだった。神様と結ばれているように感じた瞬間だった。僕は心からありがたいと思っていた。その仕事をやり抜けたのは、強い信仰と、神様の支えのおかげだと感じていたから。その期間中、教会に行ったのは、その時が初めてだった。僕は、みんながそうすべきだ、と思っているわけではないよ。子供と一緒にいる時でも、霊的な気持ちになったり、神様を身近に感じたりすることはできる。山に登ったり、海辺にいる時でも。僕はミサの儀式が好きだけどね。それは特別だよ。去年のクリスマスには、ソーホースクエアのセントパトリック教会の美しいミサに出席した。そこに行って讃美歌を聞いたけど、素晴らしかった。とても厳かでとても安らかで。良い讃美歌にまさるものはないと思う。特にグレゴリオ賛歌。本当に美しい音楽だよ。
うちにはいつも音楽が流れていた。間違いなくテレビよりしょっちゅう。おかげで僕らはいつも一緒にいた。食卓のまわりで絶えず音楽がかかっていたから、みんなその部屋にいることになった。一緒に楽しんで、一緒に笑って、一緒に歌って喋って。実際そうすることで、家族としてお互いをより深く理解していったんだと思う。最近はそういうことも、失われつつある伝統になっちゃったけどね。音楽は本当に家族をつなぎ合わせ、結びつけることができる。誰にとっても、それぞれの仲間や気持ちを分かち合える、温かくてなごやかな気晴らしになるんだ。
うちには、カール・デンヴァーの「メキシコのバラ」みたいな、いつも登場する古典があった。カール・デンヴァーは、その素晴らしいバリトンから高音のファルセットに切り替わる、驚くべき声でもって物悲しいカントリーを歌った。父さんは音楽が、そして良い歌い手が大好きだった。いろんな音楽をいいとこ取りして聞いていた。特にオペラが好きだったというわけじゃないけど、エンリコ・カルーソやリチャード・タウバー、ベニャミーノ・ジーリは好きだった。でもポール・ロブスンやヴァル・ドゥーニカンやエルビスも好きだった。ごちゃ混ぜだよね。僕らはよくイワン・レブロフのレコードを聞いた。この変人のドイツ人は、常識外れのとんでもない声を持っていた。5オクターブの音域があったんだ。僕は、自分の音楽に対する哲学は、こういうもの全部から生まれたものだと思っている。ハマれる音楽には、いやそれどころか、歌える音楽には、境界線なんてないってことだ。
(中略)
僕らは「ブリガドーン」のシーンもやった。そのためにキルトを履かなきゃいけなかったんだけどね。僕はダンスが苦手だった。だから成功させるためには、自分がばかになって笑わせるしかないなって感じてたんだ。観客を引き込むためだ。とにかく、それは喜劇的な歌なんだ。だから僕は、ひざ上丈の半ズボンをキルトの下に履いて、それから、父さんから借りた靴底に鋲釘がついた作業ブーツに、分厚いハイキングソックスを足首までくるくるっとして、編み上げのベストを着て、でっかいタマシャンター(ずきん型の帽子)を頭に乗っけたんだ。この帽子が、ずっと目までずり落ちた状態で、僕は踊ってたんだ。シーンも半ばに来る頃には、お客さんも笑いころげてたんだよ。お客さんたちは、僕らがやったことを楽しんでくれた。だけど、ロッティ・ドーソンのアシスタントは、少しイライラしてた。彼女には、それがこのショーを少し混乱させてるって見えたんだ。それでも構わず、僕らはその次のショーでもやったし、この先も同じようなことをやっていけると思ってた。だって、すごくいい反響だったし、僕はまたそんなのを味わいたいって思ってたから。ここはアマチュアの劇団だ。ちょっとした息抜きにふざけちゃいけないなんて、僕にはわからなかった。だけど、キルトを履いたヤツたちがステージの前でダンスしている所に行こうとしてると、ロッティ・ドーソンのアシスタントが「これは、ミュージカルコメディじゃないのよ」って言ってきた。で、僕はこう言ったんだ。「違いましたっけ?ああ、すみません。この劇団の名前、ロッティ・ドーソンズ・ミュージカル・コメディ・ソサイアティだと思ってたんで。」『ミスター・おふざけさん』って感じでね。けど彼女からは「これは茶番劇じゃないの。その帽子は置いて行くのよ。まじめにやってちょうだい。」って怒られてさ。僕はステージには行かなかった。そしたら、彼らに「もう二度とここに戻ってこなくて結構よ!」って言われちゃって。それで追い出されちゃったってわけなんだ。